プレアボイドとは、Prevent and avoid the adverse drug reaction(薬による有害事象を防止・回避する)という言葉を基にした造語です。
日本病院薬剤師会では、薬剤師が薬物療法に直接関与し、薬学的患者ケアを実践して患者の不利益(副作用、相互作用、 治療効果不十分など)を回避あるいは軽減した事例を“プレアボイド”と称して報告を収集しており、年間数千件の報告が集積されています。
愛媛県では、2014年度から県内の病院薬剤師と薬局薬剤師がプレアボイド事例などを共有する体制を整えています。
愛媛県はプレアボイド報告に積極的に貢献していますが、そのほとんどが病院からの報告であり、各施設の報告内容や件数さえも把握できていないのが現状でした。
そのため、愛媛県内における医薬品による患者さんの健康被害を回避した事例を集積するシステムを作成し、インターネット上にデータベースを構築することで、県内の病院と周辺の保険薬局間で薬学的介入事例を情報共有できる体制を整備しました。
また、保険薬局における残薬の解消介入についても情報収集することで、プレアボイド報告と残薬解消介入の経済的貢献度の評価を行っています。
プレアボイドシステム
愛媛県薬剤師会と愛媛県病院薬剤師会で共同開発したシステムです。それぞれの機関ごとに情報を収集、蓄積、共有をしています。
保険薬局
1.副作用等の健康被害の回避症例
2.残薬の削減症例
3.健康相談
病院
1.自施設での薬学的介入
2.保険薬局からの疑義照会を介した薬学的介入症例
薬学的介入の経済学的評価
多くの薬剤師の努力によって役割や専門性への評価は高まっているものの、その貢献度を測る指標は確立していませんでした。そこで、以前から積極的に行ってきたプレアボイド報告に着目して、薬学的介入の経済学的評価を行いました。
薬学的介入を以下の項目に分類し、国内外のエビデンスを情報検索して経済効果の推算方法を確立しました。
介入分類
[1]重大な副作用の回避または重篤化の回避
[2]経静脈的な抗菌薬療法への介入
[3]がん化学療法への介入
[4]薬物相互作用回避
[5]腎機能に応じた投与量推奨
[6]注射配合変化防止
[7]薬歴の確認
[8]その他の薬物療法提案
[9]モニタリング推奨
[10]次回受診日までの処方日数不足の回避
[11]残薬解消介入
例)[1]は2011年度の医薬品副作用被害救済給付支給件数(959件)と支給額(約20.6億円)から、1件当たりの医薬経済効果は214万円と推算。
薬学的介入の事例をご紹介いたします。(「愛顔の薬局づくり事業」事例集より抜粋)
事例1
患者背景(年齢・性別) | 3歳・男性 |
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介入前薬剤→介入後薬剤 | ラックビー®R散→レベニン®散 |
介入 | 患者が牛乳にアレルギーがあることを聴取した。ラックビー®R散は「牛乳に対してアレルギーのある患者」は禁忌に該当するため、医師へ疑義紹介したところレベニン®散へ変更となった。 |
介入内容 | その他 禁忌、副作用回避 |
事例15
患者背景(年齢・性別) | 74歳・女性 |
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介入前薬剤→介入後薬剤 | メイアクトMS®錠 100mg→なし |
介入 | 患者は近隣の耳鼻科からメイアクトMS®錠を7日分処方されていた。お薬手帳を確認すると、同日レボフロキサシン錠が処方されており、抗生物質が重複することから近隣の耳鼻科医師へ疑義紹介したところ、メイアクトMS®錠が中止となった。 |
介入内容 | その他 誤転記/誤処方に対する介入、副作用回避 |
平成25年度の我が国の処方箋枚数は7億6,303万3967枚と示されています。
医薬経済効果の評価方法に基づいて推算を行った結果、薬局では約2,000万円、病院が約6,000万円の経済効果がありました。
また、保険薬局においてはプレアボイド1件あたり平均62,300円、疑義照会1件あたり10,437円、処方せん1枚あたり388円の経済効果があると推算され、我が国で保険薬局薬剤師が患者の健康被害を回避することにより年間約2,960億円の医療経済効果があることが推測されました。
残薬解消介入は医療費削減の側面からだけでなく、潜在的にアドヒアランス改善効果が期待され、患者さんの健康に寄与している可能性が考えられます。
今後はシステムの見直しやメンテナンスを拡充させるとともに、規模を今よりも拡大し(愛媛県全域)、より正確なデータを収集していきます。